窮乏・苦労のなか 職歴もなかった女性が救われた理由
窮乏・苦労のなか 職歴もなかった女性が救われた理由
ある会社の人事採用責任者の話。
目立たないけれど、実直に 強く 日々暮らしてきた女性に出会った。
彼女は高卒22歳、女性。正社員希望。
職歴は短期短時間のアルバイト。
仕事らしい仕事は経験なし。
家族を養っていかなくてはならない立場にいる。
新聞チラシを見てこれと言う求人に応募したが履歴書を見られると 今までお仕事の経験は?ばかりで採用にはつながらなかった。
最低手取りで150,000円は必要です。この際力仕事でも夜勤でも何でもしますと言う。
確かに職歴がない。
高校3年生の時保育の専門学校への進学の話があったが、母が病気になり、また家計が逼迫し卒業直前で進学を諦めた。
父は今まで派遣社員で働いていたがそれもやめてしまったみたいで毎晩よくお酒ばかりを飲んでいる。
昔はとても元気で働き者だったが、あることをきっかけに自暴自棄になってしまったという。
その子の父は48歳、高校卒業後正社員で地元の製造工場に就職した。大きな会社だった。ただ 物を作る過程で鋳物を扱う熱い環境の作業があり それが毎日続くことに耐えられず1年もたたないうちに会社を辞めた。
それからはずっと契約や派遣社員の非正規労働。それでも間断なく働き続けてくれた。
それがある年 新卒で入った会社の子会社加工工場の仕事に派遣された。ところがその現場の部長は自分が高卒で入った時の同期であった。友達 同僚だったのに、片や部長 自分は派遣社員。給料となると俺は20万円、あいつは40万円、俺にはボーナスはないがあいつは80万もらっている。長い年月の隔たりはあまりにも酷であった。
そんな事件があった事を母から聞いた。それから父は働くことを忘れてしまった。
家族4人分の食事は、病弱な母が手伝ってくれるが、買い物含め朝と夜 彼女が作る。
妹にはお昼のお弁当も用意する。父とは、喧嘩ばかり。
確かに職歴がなかった。
パートタイマーというより全ていつ辞めてもいい短時間アルバイトだ。
レジ3ケ月、作業服販売5ケ月など、唯一半年以上続いたのが、大好きだったケーキ屋さんの仕事、ここで頑張ってみようと思ったが、クリスマスになると、夜10時までの残業が続き家の食事が作れないので、ここもやめたという。
長いあいだ、母の代わりを務めてきた。家事や母の見守り、通院立ち会い。
やっと妹が卒業し就職することになった。
これを機に彼女は正式に就職をして、家計を立て直したいと思った。
でも、採用してくれません。なんでもします。お金が必要ですと訴えられた。
農機具部品製造 人事採用責任者。
この子を救ってくれた会社があった。いや、会社ではなくこの採用担当者 人事責任者のおかげだ。応募書類の情けない職歴を見つつも、いろいろ話を聞いた後に こんなことを伝え 面接のその場で採用を告げたという。
貴女はとても仕事が出来る人。家族を思い、若いのに家事全部を引き受けてやってきた。お父さんお母さんの事も辛かったでしょう。
その中でよくこれだけの家事をこなしてきたね。職歴がありませんと貴女は言うけれど、家事は重い立派な職歴だよ。
それにね、
貴女はなんといっても、時間の大切さと、お金の大切さを知っている。
採用です。採用! いつからでもいいから貴女の都合のいい日からうちに来なさい。
こう話してくれたその責任者の目には、涙が浮かんでいた。
家庭に問題があっても、お金がなくても、実直に苦労をいとわず日々生活する姿には
いつか誰かの目に留まる。
縁とか運とか人との出会いとか 見えないけれども、そういうものが必ず微笑んでくれるようになっている。それを信じていきたい。加筆再掲